【F.A.G】バラクーダ⑱

「…奴ら、『主の指』の団員よ」

モリソバは『これだけ言えばわかるだろ?』といった表情で俺の顔を見返した。

『主の指』…ここらじゃあ知らない者のいない、イカれ腐ったカルト集団だ。
奴らの反吐が出るエピソードは、この街で生きてれば飽きるほど耳に入ってくる。

奴らが駅前で『宣教活動』をしていた時のことだ。懸命に演説に励んでいた団員に、三人の酔っ払いが絡んできた。軽い揉み合いになった後、酔っ払いの一人がその団員の顔を殴り付けた。
スッ転んで痛みに呻く団員を嘲りながらその場を後にしたチンピラ共に、地獄が待っていたのは数日後のことだった。
三人はそれぞれ同じ時間に、別々の場所で『何者か』に拉致された。そしてその団員を殴ったのと同じ右の拳を、調理用ミキサーでスムージーよろしくグチャグチャにシェイクされたのだ。
三人の内二人はその時の痛みでショック死をしたらしいが、残りの一人の行方は未だに判明していない。
まあ、少なくとも今も生きているということはないだろう。

『拒むな、さすれば主、与えん』

奴らにとって自分やその仲間、そして何より自身の信仰に仇なす者は全て敵であり、それを侮辱されたと判断すれば、どんな手段を用いても『粛清』を決行する。
この街に起こったどんな事件やトラブルも、奴らの名前が出てきた時点で、唯一で最適な解は『沈黙』なのだ。