【F.A.G】パリサイド②

「顔色が優れないな、リベラ。何かあったのか?」

俯いていると頭の上から声がした。
それがイサキのものだと気づいたのは、顔を上げた後だった。
無口なこの男が話し掛けてくるのは珍しく、最後に声を聞いたのはいつだったか、すぐには思い出せないほどだ。

「別に?何かあったって程じゃないさ」

「ノータリンのガキ共のお守りはもう飽き飽きか?まあ気持ちは分かるがね」

イサキは皺の刻まれた口元を少し緩めると、巻き煙草にマッチで火を点けた。




前の『職場』で何やかんやと色々あって、すっかり自分の人生とツキの無さに参っちまった俺は、流れ着いたこのクソみたいな街でルンペン同然に生きていた。

その日暮らしの素寒貧(すかんぴん)生活に嫌気が差しながら、かといってそれを変える気力も甲斐性も無かった死人同然の俺を拾ってくれたのがイサキだった。

イサキはここのオーナーに話を通し、俺はそのお陰で仕事にありつくことができた。
そればかりか、一日の終わりにはこうやって(やや口には合わないが)ビールを一杯ご馳走してくれる。

寡黙で人付き合いも良いとは言えない男だが、少なくとも俺にとっては命の恩人だ。