【F.A.G】バラクーダ⑤

「じゃあ乾杯いっとくべよ」

丈威がケツポケットからタマを取り出し、掌に置いて見せた。丁度三錠。
一人づつ手に取る。綿埃(わたぼこり)がちょっとだけ気になるけど。
一体いつから置いてあるのか、テーブルには温(ぬる)くなった缶ビール。こちらもぴったり人数分。こりゃ今夜はツいてるかもな。

「かんぱぁい!」

ペコが今日イチの笑顔で缶を掲げた。
俺もタマを口に放り、ビールで流し込む。戦闘準備完了。







ドアを開けて通路を進む。
カビ臭くて薄暗い。切れかけのチカついた電灯。剥き出しのコンクリートの壁は夥(おびただ)しい数のフライヤーでデコレーションされている。

ステージは地下一階。そこへ続く階段。手すりは蛇柄のレザー付き。足元は吸い殻とガムの噛みカスのパーティー会場だ。

ステージ袖に到着。フロアを覗く。ロクデナシ共のスクランブルエッグ。紫と赤の照明がラリった蜻蛉(とんぼ)みたいに飛び交っている。
地鳴りがするほどのBGM。昔のイギリスのナントカってバンドの曲だ。

鼓動が近い。心臓が耳の裏に移動したような感覚。額にじんわり汗が浮く。そろそろブツが効いてきたみたい。

脇に待機しているスタッフに目配せすると、ヤツは小さく頷いた。










一瞬の間があり、フロアから音と光が消える。









「お邪魔しまっさぁ!!」

丈威が叫ぶ。

さあ、パーティーの始まりだ。