【F.A.G】バラクーダ④
【PM6:20 ショーハウスF.A.G】
控え室のドアを開けると、モリソバがちんちくりんな体をパイプ椅子に預けてタマを食っていた。熟れすぎたトマトみてえにパンパンの顔(ツラ)は爆発寸前といった様子だ。
「遅いのね。遅すぎるの」
でっぷりと膨らんだ腹にちょび髭に二重顎。禿げ上がった頭をレザーのハンチングで隠した四十がらみの中年男。
メスのチンパンジーにすら相手にされないであろうこいつは、一応俺達のマネージャーだ。
「私も何度も同じことを言うのは好きじゃないのね。だってそれは時間の無駄だし、同じことを言わないといけないということは相手が馬鹿ということだから。私は馬鹿は嫌いなのね。いえ、好きな人間なんていないのね。つまり私が…」
「わーーったちゅうにッ!!俺らが悪かったばい!やからちょっと黙っとれやッ!」
丈威の理不尽な恫喝にモリソバはビクリと体を震わせると、卑屈な顔で壁の方に目を背けた。
「あれ?マキオ、俺今日のセトリ見てないんだけど?」
ぶつぶつと独り言を始めたモリソバを無視してペコが訊ねる。
「あ…忘れてたわ。てか前のライブから一回も合わせてないだろ。セトリもクソもなくね?」
「だはっ、違ぇねえわペコ!」
「お前もだよジョー」
「あっ…すんませんな」
ドクター・マーチンの紐をクロスしていた丈威はわざとらしく額を叩いた。
「じゃあまあいつも通りやね。俺が適当に叩くけん、勝手に合わしてくれや」
「それしかないわな」
「おっけ~ぃ」