【F.A.G】バラクーダ⑩

「他人事だと思いやがって!糞ッ!!気分悪ぃ…なんで俺ばっかりッ…!!」

青い顔で悪態をつくペコを見て、さすがに少し申し訳ない気持ちになった俺だったが、空気というものをまるで読めない丈威は、まだ先程までの余韻に浸って肩を揺らしていた。

「テメェも早く消えろ!!目障りなんだよッ!!」

「しかし、救世主様が…」

「なぁにが救世主様だクソッタレ!!テメェみたいなブスに絡まれてる時点で、こっちには神も仏もないんだよッ!!」

ペコはそう吐き捨て、ついに我慢の限界といった様子で前に出ると、女の尻(ケツ)を思いきり蹴り上げた。

女はサッカーボールみたいに壁に激突すると、『へぐぅ』と一言呻き、そのまま通路の隅でうずくまった。

ペコはそんな女の様子に一瞥もくれず、おぼつかない足取りのまま通路を先へと進んでいった。

「おいペコ、待たんね!俺らが悪かったって!!」

丈威がペコの背中に声をかけ、後を追うように歩き出す。

俺は少しだけ女の様子が気になったが、遠くなる二人の姿を見て、同じくその場を離れることにした。











控え室に戻った後も、ペコは暫く丈威の格好の的だった。





「いやーしっかし不思議な事もあるもんやね。ペコに女のファンがつくとは。ホント、羨ましい限りばい」

言葉とは裏腹に、ニヤケ顔の丈威。

「うるせーッつーの。思ってもないこと言いやがって」

「そんなん言ってぇ。実は嬉しかったんやろ?なあペコ?そうやろ?」

「だからうるせーッて」

何だかんだ二人とも楽しそうだ。

いつもそうなのだ。この二人の楽観狂は、良い出来事も、悪い出来事も、大抵のことなら自分達の『お楽しみ』に変えてしまう。