【F.A.G】バラクーダ⑨


「あなたの凛々しく、逞しく、破天荒で、繊細優雅なお姿、拝見させていただきました。そして私、確信したのです。きっと、今日という日はあなたと私のために、聖痕(スティグマ)を纏いし救世主(メサイア)様が用意してくださった特別な日だということを」

女はまるで、昨日タカラヅカか何かの特番を見たかのような口調でベロに話しかけた。

マヌケ面をさらに呆けさせて一時停止しているペコ。

俺は丈威と暫し顔を見合せ、段々と話の筋を理解すると、二人同時に腹を抱えた。

「はッはッはッ!!おまッ…!よかったなぁペコ!こいつお前に惚れたんだってよ!!」

「嬉しいと?嬉しいと?ペコ!!お前、自分のオンナ欲しがっとったもんねぇ!!」

俺達二人に一斉に指を指されたペコは、ドブの水でも飲んだような、あからさまに嫌な顔をした。

「なぁ!お前!!こいつのどこに惚れたと!?ゲロけ!?やっぱりゲロの吐きっぷりが良かったんか!?」

丈威は、まるで巨大なカブト虫を見つけた小学生のような顔で、女に畳み掛けた。

女はそんな丈威を『あなたには興味ございませんから』ってな感じで無視すると、更にペコに向かって続けた。

「私たち人間(ヒュム)にとって、救世主さまのお導きは絶対なのです。しかし、ペコ様、運命を恨んではいけません。現に、むしろ私は、この出会いに今まで体験したことのないような幸福を感じているのです」

更に笑い転げる俺達二人。
丈威に至っては過呼吸で気絶しそうな勢いだ。




「うるせぇッッ!!!!」

とうとう我慢できないといった様子のペコが喚き声を上げ、床に唾を吐きつけた。

『苦虫を噛み潰す』ってのは、正にこんな顔なんだろう。コージエンに写真付きで載せたい気分だ。