【F.A.G】バラクーダ⑫
『そいつ』はまるで暖簾のように開いた扉を潜ると、無言で部屋に足を踏み入れた。
俺はというと、情けない話だが、その圧力に尻込んでしまい、自然と道を譲る形で体を避けてしまった。
ツータックのスーツにレザーのロングコート、革靴にワイシャツにネクタイまで全てが白で統一されている。
短く刈り込んだ坊主頭に整えられた口髭。やや色の付いたメガネから鋭い眼光を覗かせるその男の身体は、身長が180センチを越える丈威よりさらに二回りはデカかった。
ゴリラの進化の隣人さながらのそいつは、部屋の中央付近まで歩いてゆくと、まるで親の仇でも探すような殺気の籠った視線で、俺達三人の顔を順番に凝視した。
「大法師様、どのゴミですか?」
男は一通り俺達を見終えると、後ろを振り返り何かに話しかけた。
見ると、巨体に隠れて気付かなかったが、男の後ろには先程の女が立っていた。
女はゆっくりと男の前に歩み出ると、ペコの顔を指差した。
バカでも判る、これはヤバいやつだ。
男がペコへ向かって歩き始める。
「ポトロ、いけません…」
「わかっています、大法師様。ここでは手出しはしません」
ポトロと呼ばれたその男は、右手で女の声を制止すると、
「抵抗しなければ、ですが」
と付け加えた。
ポトロはペコと相対すると、やれやれ、といった様子で首を振り、借りてきたトイプードルみたいに縮み上がっているヤツに向けて話し始めた。