【F.A.G】バラクーダ⑬
「まず一つ、聞こう。間違いがあってはいけないからな。こちらの方に見覚えはあるか?ゴミ」
ポトロは女の方に手を向けた。
質問されたペコは、まるでアラスカに裸(マッパ)で放り投げられたように体を震わせながら、頭を上下に動かした。
「よし、いいだろう。私達は救世主(メシア)の啓示に導かれ、ここへやって来た。その内容はこの方、我等が大法師様の将来の伴侶となる者がこの場所に現れるというものだった。ここまではいいか?」
ペコは顔面を強張らせたまま、まるで殺人現場にでも鉢合わせたかのように全身を硬直させている。
無理もない。端から見れば俺と丈威も似たようなもんだろう。
「イエスと取るぞ。話を続けよう。つまり結論から言うと、その身に余る光栄を受ける立場となったのがゴミ、貴様だったのだ。」
ポトロは視線を外し、一つ小さく溜め息を吐くと、再びペコの方に向き直り、話を続けた。
「断っておくが、私は暴力というものが好きではない。なぜならそれは、人と人との対話を無に帰してしまうものだからだ。根本的に何の解決にもならないしな」
その言葉とは裏腹に、奴の全身に怒りのオーラが見え隠れするのがわかる。
「だが、それは相手が話し合いの通じる相手に限る。貴様は高き天の啓示に背を向けたばかりか、我等が大法師様に手を上げ、その純真なるお心を踏みにじったのだ。罪深き者よ…」
ポトロは大袈裟に自身の眉間を摘まんだ。
「救世主の名の下に、聖痕(スティグマ)の裁きを実行する」
そう言って、奴がペコへと一歩、にじり寄った時だった。
「待たんか、テメェ!」
丈威が渾身の勇気を振り絞り、声を上げた。