【F.A.G】バラクーダ②
「クッソ、えーぇトコやったのに邪魔しやがって」
一通り暴れ終えると、丈威は満足したのか鼠色のソファにケツを放った。
元々爆撃地並みに汚かった部屋は、ヤツ(と俺)のせいで目も当てられない有り様だ。
「ちゅーか、まだ時間やないっちゃろ?あーあーマジダルいんやけど」
カーキのカーゴパンツを両手でぱんっ、ぱんっと払いながら不満全開のツラを覗かせる。
左胸にキリストの刺青(タトゥー)。一目で日本人の『それ』じゃないとわかるコーヒー色の肌は父親譲りだ。
「馬鹿ッ、五時入りの六時スタートだよ。今すぐ出ても間に合わん」
「いや、お前も寝とったやろ」
「ペコは?まだ来てないのかよ」
至極全うなクレームを無視して訪ねると、丈威は首を横に振り、自分の真後ろにある便所のドアを指差した。
「お前が寝とる間に来とったよ。今はあっこ」
言われてみれば、微かにドア越しにガマガエルの呻き声のような音が漏れている。
「ここ来る直前までオールで飲んどったらしいけんね。あーなったらもう終(しま)いよ。おれらは待つしかないっちゃん」
丈威はそう言ってテーブルの上に散らかっていた昨日のピザの耳を一つ頬張った後、特大の屁を続けざまに二発かましてみせた。
哀れ、この男はモラルと羞恥心てヤツをどっかの誰かに万引(ビキマン)されちまったらしい。
しばらくスマホを弄くったり、丈威と一緒にゲームをしたりして時間を潰していると、便所の水が流れる音が聞こえ、ドアの向こうから『お勤め』を終えたペコが顔を出した。
床屋の目隠しオプションって具合の散切(ざんぎ)り長髪に、紺色のジャンプ・スーツ。
元々顔色は良くないが、胃の中身を丸ごと便器の中にポイしたせいか、まるで死にかけのチワワみたいな面(ツラ)をしている。