【F.A.G】パリサイド④
「違ぇねえな」
俺はカウンターを立つと、イサキに向かって小さく手を挙げて、それを礼の代わりにした。
「あんたもあまり無理すんなよ。残り少ない余生なんだ、楽しんでいけや」
「馬鹿野郎ッ」
イサキは笑うと、短くなった巻き煙草をスチールの灰皿に押し付けた。
俺はそんなイサキの様子に合わせるように笑うとその場を後にし、薄暗くカビ臭い廊下を通り抜け、裏口のドアから外へと出た。
ハウスを出て錆びれかけの繁華街を抜けると、町工場の群れが五十メートルほど続いている。
それを横切りドブ川沿いをさらに下流に進むと、汚い掘っ立て小屋の建ち並ぶ一角が見えてくる。
そのほとんど人が住んでいない廃墟の中の比較的まともな一軒が、俺に与えられた家だった。
腐りかけのベニヤ造りの玄関扉の、錆びた蝶番に付いた南京錠を開け、中に入る。
暗闇の中、手探りで壁のスイッチをオンにすると、天井の裸電球が二、三度チカチカ躊躇った後、部屋の中を照らし始めた。