【F.A.G】バラクーダ⑮

気絶しているペコをポトロが肩に担ぐのを見ても、俺はその場を動けなかった。

「行きましょう、大法師様」

ポトロの言葉に、置物みたいに突っ立っていた女は頷き、奴の大きな背中に続いた。
今の一連の出来事の中、まるで自分だけは関係ありませんよって感じの澄まし顔をしている。
それでいて足取りはオドオドと頼りなさ気で、俺はそんな女の態度に堪らなく腹が立った。

いや、違う。俺が一番腹を立てているのは自分自身に対してだ。

いきなり現れた災害みたいな大男に、大事な二人の仲間をボロ雑巾のように扱われ、しかもその内の一人は拉致されようとしている。

そこまで頭で理解していても、俺の体はまるで金縛りにあったみたいに動かない。他人の借り物みたいに足が言うことを聞かない。
そんな自分が心の底から憎らしくて、どうしようもなく情けない。

恐怖と葛藤と羞恥心が渦巻く中、視線を感じて顔を上げた。

いま正に扉から出て行こうとするポトロが、俺の顔をじっと見ている。

言葉はない。だが、奴は言っていた。

情けない俺の姿を見て、奴の顔は確かに物語っていたんだ。







『利口なのはお前だけだったな、腰抜け野郎』





丈威…






ペコ…








気がつけば、俺はポトロに向かって駆け出していた。

最後に見たのは奴の憎たらしいツラが薄ら笑いをしている場面で、そこから俺の記憶は、突然舞台の幕が下りたかのように、一瞬で途切れて闇に消えた。