【F.A.G】バラクーダ⑯

【PM 8:20 事務所にて】






「あンのクソゴリラがぁーッ!!」

丈威は足元の丸テーブルを思い切り蹴飛ばした。

事務所に戻ってきてからずっとこの調子だ。
それも無理はない。こいつは今まで自分の意見という名の我が儘を、腕っぷしひとつで周りに無理矢理納得させて生きてきたような男なのだ。一対一でここまで見事に叩きのめされたのは、恐らく人生で初めての経験だったのだろう。

「うるせーよバカ、傷に響くだろうが」

そうは言ったものの、俺には暴走した冷蔵庫みたいな丈威を止める気はさらさら無かった。
というより、そんな体力は残っていないと言ったほうが正しい。
ポトロにぶちのめされ、暫くして目が覚めた俺は、ズタボロの体を引き摺りながら、まだ夢の世界で散歩中だった丈威をおぶって何とか事務所まで帰ってきたのだ。

「苛ついたって仕方ねぇだろうが。奴ら、何処の誰かもわかんねぇんだしよ」

「じゃあどーしたらええんや!?ここでチンタラ待っとったらペコが勝手に戻ってくるんか!?」

「だ、か、ら!モリソバのオッサンに頼んで調べてもらってるって言ってんだろ。何回同じこと繰り返さすんだテメェ」

「…ンガァー!!クソッ!!!!」

丈威は大袈裟に一つ、地団駄を踏むと、

「俺寝るけん!オッサン来たら起こしてくれや!」

と言ってベッドの上にダイブした。

たまにこいつの超絶単細胞な生き方が、死ぬほど羨ましくなる時がある。